プロバイダ責任制限法の改正|発信者情報開示請求が使いやすくなる?

purobaidahou

令和2年4月30日、「発信者情報開示の在り方に関する研究会」が行われ、開示請求に対する見直しが始まりました。
これによって個人情報の開示請求がより簡単に、迅速に行えるようになることが期待されています。

ですが、いきなり見直しが始まったと言われても、何が問題で何が見直されようとしているのか良くわからないという方もいらっしゃるのではないでしょうか。

今回は、現在の「発信者情報開示請求」の問題点と見直しポイントについて、わかりやすく解説していきます!

増加する悪質なネット誹謗中傷事例

近年、スマホやSNSが普及していく中で、匿名で行われるネット上での誹謗中傷事例が多くなっています。

2020年5月23日に報道された、女子プロレスラーの木村花さんが誹謗中傷によって自殺したと考えられる事件のことは多くの方がご存じでしょう。
また、新型コロナウイルス関係でも、感染した人に対して沢山の誹謗中傷が行われていました。

コロナ感染者、テラスハウス出演者への誹謗中傷は現在も続いていますし、その投稿を削除しない限りはずっと痕跡がネット上に残ってしまうことでしょう。

しかし、ネット上の誹謗中傷というのはその書き込みを削除してしまえば終了、というわけではありません。
根本的に解決するには、犯人である投稿者を特定して損害賠償を払わせることが必要になってきます。

その特定を行うにあたって必要な手続きが「発信者情報開示請求」です。

先日も、一時期話題となったガラケー女で誹謗中傷を受けた女性がこの請求手続きを利用し、プロバイダへの情報開示請求が認められました。
しかし、一社への請求でも情報開示が認められるまで8ヶ月かかっています。

そして今回、これまでの社会情勢に鑑みて、この発信者情報開示請求の制度が見直されようとしています

発信者情報開示請求とは?

「発信者情報開示請求」とは、簡単にいうと「投稿者の個人情報を開示するように請求する」ことです。
基本的に以下のような流れで行います。

  1. 経由プロバイダ(TwitterやInstagram、Facebookなど)に投稿者の情報を開示させる
    (IPアドレス・タイムスタンプ(発信時間)・ポート番号・携帯電話端末等からのインターネット接続サービス利用者識別符号・SIMカード識別番号)
  2. IPアドレス等の情報をもとに、投稿者が利用したアクセスプロバイダ(ソフトバンク、auといった通信会社など)を特定する
    (同時期に発信者情報消去禁止の仮処分などを行う)
  3. アクセスプロバイダから個人情報を入手し、投稿者を特定
    (住所・氏名・メールアドレス)

このように犯人を特定しますが、現在のこの仕組みでは問題点も多々存在しています。
今回の見直しでは、発信者情報開示請求を規定しているプロバイダ責任制限法(※)と、細則である総務省令の改正が検討されています。

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ここからは、問題点とそれに対してどのように見直しがされようとしているのかを解説していきます。

※正式には「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」

現状における開示請求の問題点と見直し内容

現在の「発信者情報開示請求」の問題点は大きく分けて3つあげられます。

  • 現在の開示可能な情報では発信者を特定することが技術的に困難な場面が増加している
  • 権利侵害が明白と思われる場合であっても、発信者情報が裁判外で(任意に)開示されないケースが多い
  • 裁判外で(任意で)開示されない場合、発信者の特定のための裁判手続に時間・コストがかかる(特に海外プロバイダを相手とする場合)

これらについてひとつひとつ見ていきましょう。

①現在の開示可能な情報では発信者を特定することが技術的に困難

先述した情報開示の流れにもあったように、特定を行うにはまずTwitterやInstagramといった「経由プロバイダ」から、より個人情報を所有しているソフトバンクやdocomoなどの「アクセスプロバイダ」を特定する情報を開示してもらわなければなりません。

その情報は「IPアドレス」や「タイムスタンプ」といい、開示請求では「投稿時の」IPアドレスやタイムスタンプの開示のみ認められています。

しかし、TwitterやGoogleといったいくつかの経由プロバイダはログイン時にIPアドレスやタイムスタンプが発生するだけで、投稿時には発生しない仕組みになっているのです。
現行の開示請求では「投稿時の」情報開示が認められているのであって、「ログイン時の」情報開示までは認められていません
その結果、発信者の特定が難しくなり、被害者が泣き寝入りするケースが多いのです。

このことから、経由プロバイダにログイン時のIPアドレス・タイムスタンプの開示を認め、発信者の特定がより簡単にできるように制度の見直しが進められています。

また、SMSで使われる電話番号がメールアドレスに該当するとして実際に開示を認めた裁判例(東京地裁令和元年12月11日判決)があります。
この裁判例もきっかけの一つとなり、電話番号を開示情報のひとつとして認めるようにも検討がされています。

なお、東京地裁令和元年12月11日判決の事案は、控訴審係属中で確定はしていません。

②発信者情報が裁判外で(任意に)開示されないケースが多い

発信者情報開示請求は、裁判を行わずに任意で請求する方法も存在します。

ただ、任意の開示請求で情報が開示されることは基本的にありません。
というのも、任意開示が行われるには、プロバイダがその投稿によって「権利侵害が明白にある」と判断しなければいけないからです。

しかし、何をもって「明白」と判断していいのかよくわからないですよね。
もし、任意開示をした後に実は「明白」ではなかったと判断されたら、プロバイダが発信者(投稿者)に訴訟を起こされる可能性が出てしまいます。

そのリスクを避けるためにも、プロバイダ側が任意で開示請求に応じることは少ないのです。

任意で開示が行われないとなると、被害者が裁判所に申し立てて請求しなければなりません。
結果、現在の開示請求では大量のコストと時間がかかってしまっているのです。

以上の状況に鑑みて、迅速に開示が行われるようにするために、プロバイダのリスクを軽減するような免責制度をつくるなどの検討が進められています。

③発信者特定の裁判手続に時間・コストがかかる(特に海外プロバイダ)

誹謗中傷が行われやすいTwitter・Instagram・Googleなど、外国発祥のプラットフォーマーに開示請求する場合は、海外にある本社に連絡をとる必要があります。

しかし、それでは国内以上に手続きの時間やコストがかかります。
被害者の負担の大きさから、特定を諦める人も少なくありません。

そのため、日本に拠点がある海外プラットフォーマーには日本法人への呼び出しで事足りるようにするなど、簡単に訴訟が行える制度になるように検討されています。

このように、現状の開示請求では様々な問題を抱えており、それを解決するための見直しが考えられているのです。
この見直しは7月までに大まかな方向付けがされ、11月頃に最終決定が行われる予定です。

まとめ

以上が、4月30日に決定した発信者情報開示請求の見直しの理由と概要です。
被害者が泣き寝入りしないように簡単に開示請求ができるようにするというのは、被害者救済の面から考えればとても良いことです。

しかし、個人情報の開示が容易になるという反面、プライバシーの保護や表現の自由の観点からも均衡がとれるような制度にする必要もあります。
これからどのように見直しが進んでいくのか注目されます。

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