著作権と法律|著作権侵害になるケース・ならないケース
YouTubeやSNSを使って、誰でも気軽に情報発信できる現代。便利な反面、他人の権利を悪気なく侵害してしまうという…[続きを読む]
【7月21日更新】最高裁判決が上告が棄却されたため、最高裁の判断を一部追加して更新しました。
TwitterなどのSNSにおいて著作物を無断でアップロードする行為が著作権法に違反することは、ご存じの方も多いかと思います。
一方、無断でアップロードされた画像付きのツイートをリツイートする行為はどうでしょうか。
Twitter上でのリツイートはだれでも簡単にできますが、リツイートの対象が無断転載物である場合、思いがけず法的な責任を負担してしまうかもしれません。
2020年7月21日、まさにこの無断転載物のリツイートの違法性が問題となった事案に対して、最高裁の判断が示されました。
この記事では、最高裁でリツイートに関してどのような点が問題とされたかを解説します。
今回のリツイートが問題になった事件は、知財高裁で平成30年4月25日に判決が下されたものですが、ツイッター社の上告受理申し立てが受理されたため、今回最高裁で判断されたものです。
最高裁はツイッター社からの上告を棄却し、原審である知財高裁の判断で確定されました。
つまり、リツイートは著作者人格権侵害になる場合があり、発信者情報開示でリツイートした人の情報が開示されることもあるということです。
【参考】裁判所HP:最高裁令和2年7月21日判決
以下では事件の概要と結論を、最高裁判決と原審である知財高裁判決に沿ってご説明します。
リツイートと著作権侵害などの結論だけ知りたい方は後半の「最高裁判決の結論|リツイートは著作者人格権侵害になり得る」をお読みください。
なお、最高裁判決には1人の補足意見と、1人の反対意見が付いています。
今回の最高裁判決の事案は、写真の著作物を違法にアップロードされた原告(控訴人)が、アップロード先であるTwitterを運営するツイッター社(被控訴人。厳密には、日本支社であるTwitter Japan株式会社と、本社であるツイッター・インク)に対して発信者情報開示請求を行った事案です。
具体的に著作権法違反が問題となった行為、原告の主張、主な争点などについて見ていきましょう。
この事案では、原告が著作権を有する写真について行われた、以下の3つの行為が問題となりました。
上記の問題となった行為に関して、写真を無断転載された原告は、以下のとおり主張しました。
まず、上記①の「写真を無断でアカウントのプロフィール画像として設定する行為」および②の「写真を無断で画像付きツイートの一部として用い、タイムライン上に表示させる行為」について、公衆送信権(著作権法23条1項)を侵害するものであると主張しました。
なお、この記事で問題になる著作権の概要については、こちらの記事をお読みください。
さらに原告は、画像付きツイートを投稿した者だけなく、そのツイートをリツイートした者についても、著作権および著作者人格権の侵害を理由として著作権法違反であると主張しました。
上記の無断転載者およびリツイート者により、自らの著作権および著作者人格権が侵害されていることを理由として、原告はツイッター社に対し、無断転載者およびリツイート者に関する発信者情報(メールアドレス、IPアドレス、タイムスタンプ)の開示を請求しました。
原告は、投稿者の特定の必要性や侵害の永続性などを理由に、最新のログイン時IPアドレスおよびこれに対応したタイムスタンプの開示を請求していました。
前述①および②の行為(無断でプロフィールに設定し、ツイートに利用したこと)による公衆送信権の侵害については、ツイッター社側も争うことはありませんでした。
そのため、無断転載によるプロフィール画像の設定または画像付きツイートの投稿を行った者に関する発信者情報の開示請求は、そのまま認められることとなりました。
残る問題は、著作権法違反のツイートをリツイートする行為が著作権・著作者人格権の侵害に当たるかという点です。
ツイッター社の反論とともに争点を確認していきましょう。
原告がリツイート行為についても著作権(公衆送信権など)を侵害していると主張する一方、ツイッター社は以下のとおり、著作権侵害の成立を否定する主張を行いました。
また、ツイッター社は、リツイート者による著作者人格権の侵害についても、以下のとおり反論しました。
この事案では無断転載者やリツイート者の発信者情報として、IPアドレスやタイムスタンプの開示が請求されています。
仮に著作権や著作者人格権の侵害によるこれらの情報の開示を認めるとしても、どの時点の情報を開示すべきかという問題があります。
この問題は、まさに開示制度の改正が議論されているところです。
ツイッター社は、最新のログイン時IPアドレスおよびこれに対応したタイムスタンプは投稿時から最も離れた時点のものであり、侵害情報との関連性が薄いことなどを理由に、最新のログイン時IPアドレスおよびこれに対応したタイムスタンプの開示は認められないと反論しました。
上記の争点に関して、最高裁判決および知財高裁判決での内容について解説します。
知財高裁が争点に対して下した結論の概要は、以下のとおりです。これらの点は最高裁でも是認されました。
結果として、リツイート者については、同一性保持権および氏名表示権(いずれも著作者人格権)の侵害を理由に、電子メールアドレスの開示に限ってツイッター社の開示義務が認められました。
それぞれ理由を確認してみましょう。
著作権のうち、中心的な論点となったリツイート者による公衆送信権の侵害については、以下の理由から否定されました。
また、公衆伝達権・複製権の侵害についても否定されました。
このリツイートによる著作者人格権侵害が、最高裁で主に争われたものの1つです。
リツイート時に発生するトリミング行為について、以下の理由からリツイート者による同一性保持権・氏名表示権の侵害が肯定されました。
一方、名誉声望保持権の侵害は否定されました。
無断転載者・リツイート者の最新のログイン時IPアドレスおよび対応するタイムスタンプについては、侵害情報が発信された行為とは無関係であるとして、ツイッター社の開示義務を認めませんでした。
これについては、現在進められている発信者情報開示の制度改正が進めば、また異なった判断もあり得るでしょう。
Twitterのリツイートは誰でも気軽に行うことができる反面、元のツイートの信頼性や適法性のチェックが毎回慎重に行われているとは言い難い状況があります。
最高裁判決が示すように、違法にアップロードされた画像を軽率にリツイートしてしまった場合に法的な責任を問われる可能性があるとなると、ユーザーがTwitterを利用する際には、より慎重な対応が求められることになります。
その意味で、この最高裁判決がSNSなどの利用に与えるインパクトは大きく、注目度の高い事案であるということができるでしょう。