発信者情報開示の仮処分と訴訟の流れをわかりやすく解説
サイトでは投稿が匿名で行われるので、すぐに相手に損害賠償請求や刑事告訴することはできません。今回は、ネットで誹謗中傷…[続きを読む]
「テラスハウス」に出演していた木村花さんの自殺や、中学生が匿名掲示板の誹謗中傷で不登校になった事件など、ネット上の誹謗中傷は跡を絶ちません。
こうした状況を受けて、総務省は2020年6月頃から誹謗中傷対策のための制度改正を検討しています。
そのなかの一つに、誹謗中傷をした人を特定するための「発信者情報開示」に新しい裁判手続きを創設するというものがあります。
この記事では、発信者情報開示の新たな裁判手続きについて解説します。
まず、発信者情報開示という制度は、簡単にいえば、匿名掲示板やSNSなどに書き込んだ人を特定できる制度です(プロバイダ責任制限法4条)。
書き込んだ人を特定できれば、その人に損害賠償請求などが可能になります。
この制度自体は従来からありますが、実は特定は容易ではなく、簡略化しても次のようなステップを踏む必要があります。
なお、2020年8月の制度改正により、上記1で電話番号の開示を受けることもできるようになりました(サイト運営者が保有している場合)。
電話番号を入手できれば、電話会社への弁護士会照会で投稿者を特定できる可能性もありますが、電話会社が個人情報保護を理由に回答しないことも多いため、その場合は結局は上記1~3のステップが必要です。
基本的には上記のように2段階の裁判手続きが必要であり、このことが被害者にとって大きな負担となっていました。
続いて、ご説明した発信者情報開示手続きの問題点を解消する方法の一つとして、総務省が検討している裁判手続きについて解説します。
なお、この制度はまだ確定ではなく、2020年10月26日にまとめられた「最終とりまとめ骨子(案)」ですので、まだ具体的な制度自体は確定していません。
今後の調整で細部が決まっていき、変更される可能性もあります。
新設される制度では、被害者からの1回の請求で、従来の2回目までの情報を入手できるようになる見込みです。
(画像引用元:総務省 発信者情報開示の在り方に関する研究会「最終とりまとめ骨子(案)」)
新制度は、上の資料画像のように、被害者が開示請求をすることで、裁判所がサイト運営者とプロバイダとの2段階の開示命令をやってくれる、というイメージです。
また、この開示請求手続きは従来のような仮処分及び本案訴訟ではなく、「非訟手続」と呼ばれる制度で作られることも検討されています。
これにより、迅速な判断が可能になり、海外事業者に対しても柔軟な対応が可能になるとされています。
一見すると大変便利な制度に思えますが、総務省の検討では課題もいくつか指摘されています。
このため、新たな裁判手続きは、従来の制度を廃止するのではなく、従来の制度に加えて新設することで、上記の課題を解決しつつ、迅速な被害者救済を目指す方向で検討されています。
発信者情報開示に関する新たな裁判手続きについて、簡単にご説明しました。
ネット上での誹謗中傷に関する被害者救済の制度は、2020年に急速に改正が進められています。
今後、発信者情報開示制度がどのように変わっていくか注目されます。