違法ダウンロードで警察きて逮捕!非親告罪なの?個人で楽しむもダメ?
2020年6月5日、著作権法改正案が成立しました。これにより、違法ダウンロードの厳格化やリーチサイトの取り締まりが強…[続きを読む]
2021(令和3)年11月2日、仙台地方裁判所において、「ファスト映画」事件の刑事裁判に判決が下りました。被告人3名に対し、著作権法違反として、執行猶予付きの懲役刑及び罰金刑を科す有罪判決です。
今や様々な意味で有名となってしまったユーチューバーの「ファスト映画」は、youtubeで動画を目にした方も多いでしょう。
ただ、ファスト映画のどのような点がなぜ著作権法違反なのか、何が問題点なのか、きちんと理解できている方は案外少ないはずです。
この記事では、そもそも著作権とはどのような権利か?ファスト映画のどこが違法なのか?ファスト映画を見た人(視聴した者)・見る側は罪に問われないのか?などについて、わかりやすく解説します(※)。
※なお、同事件の判決文や起訴状は公開されていないので、正確な詳細は不明です。この記事では現時点(2022年2月1日)での報道内容に基づいて解説をします。
ファスト映画とは、動画サイトであるyoutubuにアップロードされた動画番組です。
例えば120分の映画作品を編集して10分程度のダイジェスト版を作製し、これに作品のストーリーを解説する音声や字幕を付けてアップロードします。
この動画番組の前や途中には広告動画が流され、視聴者が動画を再生することによって、動画をアップロードした者に再生回数等に応じた広告収入がもたらされる仕組みです。
被告人であるABC3名は、2020(令和2)年6月から7月まで、映画作品「アイアムアヒーロー」他二作品(著作権者は東宝株式会社)、「冷たい熱帯魚」他一作品(著作権者は日活株式会社)を、著作権者に無断で編集し、解説ナレーションを付けるなどした動画をyoutubuにアップロードして著作権法に違反したとして逮捕され、起訴されました。
被害者は著作権者である東宝と日活です。
被告人3名は、いずれも起訴事実を争わず、審理は第1回公判で結審し、第2回公判で判決が下りました。内容は次のとおりです(※)。
被告人A(主犯格)
懲役2年
執行猶予4年
罰金200万円
被告人B
懲役1年6月
執行猶予3年
罰金100万円
被告人C
懲役1年6月
執行猶予3年
罰金50万円
※2021年11月16日「『ファスト映画』アップロード、3名に有罪判決」一般社団法人コンテンツ海外流通促進機構(CODA)サイト
http://www.coda-cj.jp/news/detail.php?id=224
なお、ABCのファスト映画編集に協力したとして、2021(令和3)年7月に宮城県警によって書類送検されていた女性が、上記の裁判とは別に、2022(令和4)年1月17日、仙台区検察庁によって仙台簡易裁判所に著作権法違反で略式起訴され、同裁判所は罰金20万円の略式命令を発したと報道されています(※)。
※2022年1月19日・時事ドットコムニュース「ファスト映画で罰金20万円 著作権法違反罪 仙台簡裁」時事通信社
https://www.jiji.com/jc/article?k=2022011901027&g=soc
以上が事件・訴訟の概要です。ここからは、この事件を理解する前提として、「著作権」とは何かという点から、どの点が違法なのか、問題点などわかりやすく解説します。
著作権法は「文化の発展に寄与することを目的」とします(著作権法1条)。言い換えれば、芸術文化活動が活発に行われる社会となるよう創作活動を保護する法律です。
苦労して作り上げた作品を、勝手に他人に使われてしまっては、創作者の努力は報われず、今後、創作活動を行う人はいなくなってしまいます。
そこで著作権法は、作品を創作した者などに、一定の権利を与えて、他人に作品を無断使用などされないよう保護しているのです。
著作権法は、一般の方、始めて勉強する方にはわかりにくい法律です。
その原因は、「著作権」という用語が、様々な意味で使われており、その場面における「著作権」という言葉が、どのような意味で用いられているのか、すぐには理解できないためです。
実は、著作権法には、創作物にかかわる、たくさんの様々な権利が定められています。むしろ、「著作権」とは、「たくさんの権利の集合体」だと思っていただいた方が理解が容易です。
「著作権」という、大きな箱の中に、色々な種類の個別の権利を納めた小さな箱が、たくさん詰め込まれており、著作権を理解するには、その小さな箱の中身をひとつひとつ理解する必要がある……といったイメージです。
もう少々、踏み込んで解説しましょう。
著作権法が保障する権利は、もっとも大きな分け方では、①「著作者の権利」と、②「著作隣接権」に分けられます。
①「著作者の権利」は、作品の創作者である著作者に与えられる権利です。例えば音楽の作曲者は著作者です。
②「著作隣接権」は、作品を伝達する者に与えられる権利です。例えば音楽の演奏者です。Aさんが作曲した曲を、Bさんが演奏した場合、その演奏録音などには、Aさんの「著作者の権利」とは別個に、Bさんの「著作隣接権」が認められます。
さて、この①「著作者の権利」と、②「著作隣接権」の両方をまとめて、「著作権」と呼ぶ場合があります。広い意味での「著作権」と言えます。
そして、このうち、①「著作者の権利」だけを「著作権」と呼ぶ場合もあります。狭い意味での「著作権」と言えましょう。
ここまででも、ややこしいですが、さらに面倒くさくなります。
作品の創作者に認められる①「著作者の権利」は、さらに2つに分けられます。①ーA「著作者人格権」と、①ーB「財産権」です。
①ーA「著作者人格権」は、作品を創作した者の人格的な利益を守る権利です。言い換えれば、精神的に傷つけられないための権利と言えます。
これには、例えば、未発表の作品を無断で公表されない権利(公表権・18条)や、作品を無断で改変されない権利(同一性保持権・20条)などがあります。
①ーB「財産権」は、作品を創作した者の経済的な利益を守る権利です。言い換えれば、金銭的な損害を受けないための権利と言えます。
これには、例えば、無断で複製されない権利(複製権・21条)や、無断で公衆に展示されない権利(展示権・25条)などがあります。
そして、本当に面倒くさいのは、この①ーB「財産権」だけを指して、「著作権」と呼ぶ場合があるのです。もっとも狭い意味の「著作権」という用語の使い方です。
さて、ここまでで「著作権とは何か?」と問われた場合に、3種類の答え方があることをおわかりいただけと思います。これを図にまとめておきます。
この図を、みなさんの頭にいれておいてください。
映画が著作権の対象であることを疑う人はいないと思いますが、一応説明しておきます。
①「著作者の権利」(狭い意味での「著作権」)の対象となるのは、「著作物」であり、それは「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」と定義されます(2条1項)。
この定義も一見難しそうですが、実は簡単です。
「思想又は感情」でない単なるデーター、「創作的」でない模倣や単なる事実、「表現」に至っていないアイディア、「文芸、学術、美術又は音楽」でない工業製品、これらを保護の範囲から除外しただけです。
さて映画は総合芸術と言われ、上の定義に当てはまる「著作物」であることは明らかです。著作権法は第10条で「映画の著作物」を著作物と規定していますが(10条1項7号)、これは著作物となるものを念のために例示しただけですから、このような定めがなくとも映画は当然に著作物です。
そして、著作物を創作した者は、創作したという事実だけで、当然に①「著作者の権利」(狭い意味での「著作権」)を取得します。届出・登録・許可などの方式・手続は一切不要です。これを無方式主義と呼びます(17条2項)。
ただ、映画は原作・脚本・映像・音楽から構成され、それぞれに創作者が存在しますし、製作には、プロデューサー・監督・撮影監督・美術監督・特撮監督など多くの人がかかわりますから、単純に誰の創作かを判断することには無理があります。
そこで著作権法は、映画に関する①「著作者の権利」(狭い意味での「著作権」)については、次のとおり定めています。
(ア)映画会社が、その内部で発案・企画し、その従業員だけで製作し、自社の名義で公表する映画は、映画会社が①「著作者の権利」(狭い意味での「著作権」)を取得する(16条ただし書き、15条1項、2条1項10号)。
(イ)映画会社が、外部の監督等に依頼して製作した映画は、①「著作者の権利」(狭い意味での「著作権」)のうち、①ーA「著作者人格権」だけは外部の監督等に残るが、①ーB「財産権」(もっとも狭い意味の「著作権」)は、映画会社に帰属する(29条1項)。
報道によれば、本件事件の著作権者は、いずれも映画会社ということですから、詳しい経緯は不明ですが、上のいずれかの製作体制であったことから、映画会社に少なくとも①ーB「財産権」(もっとも狭い意味の「著作権」)があり、被害者となったものと思われます。
詳細な判決内容が不明ですので、報道から推測するしかありませんが、ファスト映画の著作権侵害行為として、次の諸点を問題点として指摘できます。
映画会社は、①ーB「財産権」(もっとも狭い意味の「著作権」)の内容として、著作物を複製されない権利を有しています(21条)。
ファスト映画は、映画作品の映像を、そのままコピーして動画に使用していますから、複製権侵害は明らかです。
映画会社は、①ーB「財産権」(もっとも狭い意味の「著作権」)の内容として、著作物を無断で公衆に向けて送信されない権利を有しています(23条1項、2条1項7号の2、同9号の4、同9号の5)。送信方法は、無線・有線を問わず、あらゆる送信形態が含まれます。
youtubeの場合は、視聴者が動画をクリックしてアクセスすることで始めて送信されることになりますが、そのような状態を作り出すためには、前段階として、動画をyoutubeにアップロードする行為が必要です。このような準備段階の行為は、その後の送信を可能にするための行為ですから、「送信可能化」行為(2条1項9号の5)と呼ばれ、これも禁止対象とされています。
したがって、ファスト映画をアップロードする行為それ自体が公衆送信権を侵害する行為であって、たとえ視聴者に視聴されなくても、違法であることに変わりはありません。
映画会社は、①ーB「財産権」(もっとも狭い意味の「著作権」)の内容として、著作物を無断で「翻案」されない権利を有しています(27条)。
「翻案」とは、例えば既存の作品の大筋を真似しつつ、細部を変更して、別の作品とする行為です。まったく同じコピー(複製)ではないものの、既存の作品の本質的部分が残っており、もとの作品の存在がわかる場合とも言われます。
ファスト映画では、120分程度の映画を無断で10分程に編集し、映画のストーリーを抜き出して字幕やナレーションにしており、翻案に該当することも明らかですから、翻案権を侵害するものです。
なお、このように翻案されて出来上がった動画に、制作者の新たな創作が付加されていると認められる場合は、これを二次的著作物と呼びます(2条1項11号)。
二次的著作物の創作者にも、その動画に対する①著作権(「著作者の権利」・狭い意味での「著作権」)が認められますから、例えば、第三者がファスト映画をコピーしてネットにアップロードすれば、ファスト映画の創作者の複製権を侵害することになり違法です(なお、この場合、もともとの映画会社の複製権も同時に侵害することになります。28条)。
ただし、二次的著作物として著作権が認められても、もともとの映画作品の著作権を侵害していることが許されるわけではありません。
この点、「二次的著作物となれば違法ではない」と誤解している方がとても多いので、注意してください。
前述のとおり、映画会社が、その内部で発案・企画し、その従業員だけで製作し、自社の名義で公表する映画は、映画会社が①「著作者の権利」(狭い意味での「著作権」)を取得し(16条ただし書き、15条1項)、その結果として映画会社は、①ーA「著作者人格権」も取得します。
人格的な利益を守る①ーA「著作者人格権」を法人に保障することは疑問もありますが、15条1項が明確に映画会社を著作者と認め、その著作者人格権を除外する規定がない以上は、映画会社にも、この権利が認められます(※)。
※中山信弘「著作権法」(有斐閣)368頁参照
著作者人格権のひとつとして、著作者は無断で作品を改変(題名や内容の変更・切除など)されない同一性保持権(20条)を有します。映画を無断編集したファスト映画が、同一性保持権を侵害していることは明白です。
ファスト映画とレビュー・映画紹介の違いについて考えてみましょう。
例えば、ある作品の批評文を書く場合に、その作品の内容を「引用」して記載することは、著作権保護の例外として許されています(32条1項)。
ただし、適法とされるには厳しい条件があります。
などです。
ファスト映画は、これらの条件を満たしてはおらず、その点がレビューや通常の映画紹介とははっきりと異なる点です。
近年、著作権法の改正により、違法アップロードされたコンテンツをダウンロードすること自体が違法とされました。しかし、視聴のみに関しては、現行法上、違法とはされていません。
しかし、その一方で、このような違法アップロードされたコンテンツを視聴し続けることで、アップロード側の違法行為を助長してしまう面は否めません。権利者への支払いがなされず、コンテンツ製作へのインセンティブが失われかねません。
そのため、視聴者として適切な利用方法を心がける必要があります。合法的に公開されたコンテンツを視聴したり、公式が提供する有料サービスを利用するなどの方法が推奨されます。
したがって、視聴者個人には視聴のみでの直接の罰則こそ無いものの、倫理的にはグレーゾーンであり、適法なコンテンツの利用が何より大切になってくるでしょう。
著作権を侵害する行為に対する罰則は次のとおりです。
・①ーB「財産権」(もっとも狭い意味の「著作権」)を侵害する行為は、10年以下の懲役刑もしくは1000万円以下の罰金刑。またはこれを併科(両方の刑を科すこと)できます(119条1項)。
前述した複製権侵害、公衆送信権侵害、翻案権侵害がこれにあたります。
・①ーA「著作者人格権」を侵害する行為は、5年以下の懲役刑もしくは500万円以下の罰金刑。またはこれを併科できます(119条2項)。
前述の同一性保持権侵害がこれにあたります。
著作権侵害行為は不法行為(民法709条)ですから、被害者は侵害者に対して、損害賠償を請求することができます。
ただ、不法行為制度の原則では、被害者側が損害額を立証しなくてはならず、著作権侵害事件では、これが困難な場合が珍しくありません。そこで、著作権法は、いくつかの特別な規定を設けて、被害者の立証の負担を軽減しています。
例えば、ファスト映画のために観客が減少して利益を得られなかったとしても、その金額を算出することは事実上不可能です。そのような場合、侵害者が侵害行為によって得た利益が損害額と推定されます(114条2項)。
ファスト映画事件は話題になっていますが、それはインターネット、youtubeを使った犯罪だからです。
例えば、既存の映画作品のフィルムを入手し、それを切り貼りして短縮した映画に、近所のスーパーの広告を挟み込み、夏の夜、公園で上映し、スーパーから広告代をもらったというケースと何も違いはありません。その意味では、youtubeを使ったという以外は何も目新しい犯罪ではなく、法律的な観点からは興味を惹くような事件ではないのです。
もっとも、犯罪としては古典的な部類なだけに、今後も同様の犯行が繰り返されることが懸念されます。決して真似をしないようにしてください。