名誉毀損とは|構成要件、罪、時効、事例をわかりやすく解説
ネットで他人を誹謗中傷すると「名誉毀損」となって相手から刑事告訴や損害賠償請求をされる可能性があります。一方誹謗中傷…[続きを読む]
現代では、インターネットに企業やお店の口コミなどを投稿する人も多いのではないでしょうか。
しかし、ネット上に軽い気持ちで虚偽の投稿をすると「信用毀損罪」という犯罪が成立する可能性があるのです。
そこで今回は、どのようなケースだと信用毀損罪が成立するのか、他の犯罪とどう違うのかなど、ネット上における「信用毀損罪」についてわかりやすく解説していきます。
目次
信用毀損罪は、刑法で以下のように定義されています。
このように、嘘の情報を流したり人を騙したりして人の信用を落としたときに成立する犯罪のことをいいます。
ネット上でも、虚偽の情報を流すことで他人の信用を傷つけると、信用毀損罪が成立する可能性があります。
なお、信用毀損罪になると3年以下の懲役または50万円以下の罰金が科せられます。
ここからは、もう少しわかりやすく要件の意味を確認していきましょう。
信用毀損罪が成立するのは、「虚偽の風説」を流すことによって他人の信用を毀損した場合です。
風説というのは噂のことです。
つまり、”嘘の噂”が「虚偽の風説」にあたります。
信用毀損罪は「虚偽」の内容であることが必要なため、内容が真実であれば罪に問われることはありません。
「流布」というのは、不特定多数の人に広めることです。
ネット上に投稿をすると、基本的には不特定多数の人がその情報を目にすることができてしまいますので「流布」に該当します。
2ちゃんねるや爆サイなどの匿名掲示板・個人のブログ・TwitterやFacebook、Instagram等のSNSなど、どのような媒介でも「流布」になります。
「偽計」を用いて他人の信用を毀損した場合にも、信用毀損罪が成立します。
「偽計」とは、他人を騙したり、錯誤に乗じたり、誘惑したりすることです。
たとえば、飲料水に異物が入っていたと警察に虚偽申告したことが偽計に該当すると評価されたケースがあります。
信用毀損罪で保護の対象となっているのは「人の」信用です。
この場合、個人に加えて企業などの法人、さらには法人格のない団体も含まれます。
単に人間だけが保護対象というわけではないので、注意してください。
信用毀損罪の「信用」は一般的な意味の信用とは異なり、「経済的な側面における人の社会的な評価」と解されています。
経済的な側面とあるように、お金や資力に関する信用を主に指します。
そのため、「あいつは嘘つきだ」という書き込みでは信用毀損罪にはなりません。
また、この「信用」には大きくわけて2つの意味があります。
一つ目は、「支払能力や支払意思」に対する信用です。
例えば「あの企業は倒産寸前だ」という噂を広め、その企業にお金がないのだと誤解させるとこれらの信用を毀損したことになります。
二つ目は、「販売する商品やサービスの質」などに対する評価です。
というように、その人が提供するものの品質に対する社会的信頼を毀損すると、信用毀損罪に該当します。
このように、信用毀損罪における「信用」は、対象者の支払能力に関する信用をはじめとして広く経済的な面における社会的評価を意味します。
実際に結果が発生しなくても成立する犯罪のことを、「抽象的危険犯」と言います。
信用毀損罪は抽象的危険犯であるため、実際に信用が低下したことまでは要求されません。
信用が低下するおそれのある行為をしただけで既遂となります。
つまり、実際に被害が出ていなくともネット上に他人や他社の信用を損なう書き込みをした時点で信用毀損罪となってしまうのです。
「実際に店の営業に影響が出ていないから問題ない」と言い訳することはできないので、注意してください。
「親告罪」とは、被害者本人によって刑事告訴がないと裁かれない犯罪のことをいいます。
代表的な例でいうと、名誉毀損罪や著作権侵害などが挙げられます。
このような親告罪は、第三者が通報したとしても逮捕されたり刑事裁判になったりすることはありません。
これに対し、信用毀損罪は親告罪ではありません。
たとえ被害者が刑事告訴しなくても、悪質な書き込みをしていることが発覚すれば刑事事件になってしまう可能性があります。
先述した要件を踏まえ、信用毀損罪が成立するネット上の書き込みのわかりやすい例としては以下のようなケースがあげられます。
ネット上の信用毀損罪は他の犯罪と混同しやすい部分がありますが、勿論それぞれ違いがあります。
ここでは、特に業務妨害罪と名誉毀損罪に焦点をあてて違いを見ていきましょう。
ネット上でお店や会社などの悪口を投稿すると、業務妨害罪が成立することもあります。
そもそも信用毀損罪と偽計業務妨害罪は同じ条文に規定されており、非常によく似た罪に見えます(前段が信用毀損罪、後段が偽計業務妨害罪)。
しかし、この2つの罪は保護される利益という点で違いがあるのです。
信用毀損罪の場合には、「対象者(被害者)の経済的な信用」が保護されるべき利益になります。
したがって、先述したように相手の経済的信用を毀損する行為をすると信用毀損罪が成立します。
これに対し、業務妨害罪で保護される利益は「対象者の正常な業務運営」です。
そのため、例えば嘘の噂を流すことによって相手にクレームの電話が殺到したなど、通常の業務を妨害することに繋がると業務妨害罪が成立します。
とはいえ、実際にはネット上の書き込みが信用毀損罪と業務妨害罪の両方に該当することが多くあります。
その場合には、信用毀損罪と業務妨害罪が両者とも成立して、「観念的競合」の関係になります。
観念的競合とは、2つ以上の罪を1つの行為によって行い、同時に成立させることです。
このとき、基本的に重い刑罰の方が適用されますが、偽計業務妨害罪と信用毀損罪の刑罰は同じなので結局は「3年以下の懲役または50万円以下の罰金刑」によって裁かれることになります。
信用毀損罪に似た罪として、名誉毀損罪もあげられます。
名誉毀損罪は、刑法で以下のように定められています。
上記にある通り、名誉毀損罪は「公然と」「事実の摘示」により「他人の」「社会的評価を低下させる」場合に成立する犯罪です。
これを踏まえ、両罪の違いは以下の3つがあげられます。
一つ目は、信用毀損罪は虚偽の内容であることが必要であるのに対し、名誉毀損罪は内容が真実でも成立するケースがあるということです。
「事実を摘示」とあるように、名誉毀損罪ではその内容が真実か嘘かは問われていません。
そのため、いくら真実であったとしてもその内容で相手の社会的評価が下がった場合には、名誉毀損罪が成立する可能性があります。
二つ目に、名誉毀損罪で保護されるべき利益が「他人の社会的評価」であることです。
信用毀損罪の範囲である「経済的な信用」に限定されず、より広い範囲が対象となっています。
つまり、「あの店は暴力団関係者が運営している」などと言ったとき、経済的な信用とは無関係なので信用毀損罪は成立しませんが、名誉毀損罪が成立する可能性があるということです。
最後に、名誉毀損罪は親告罪であることです。
名誉毀損された被害者本人が刑事告訴をしない限り、捜査が開始されることはありません。
これに対し、信用毀損罪の場合には本人からの刑事告訴がなくても警察が動いて逮捕される可能性があります。
なお、業務妨害罪と同様、信用毀損罪と名誉毀損罪が両方成立することもあります。
この場合、観念的競合によって信用毀損罪の刑罰が適用されることになります。
ここまで、信用毀損行為をした場合の刑事責任について説明してきましたが、ネット上で他人の信用を毀損すると、民事上の不法行為責任も発生します。
不法行為責任とは、要するに損害賠償責任のことです。
信用を毀損すると、客足が落ちて飲食店の売り上げが低下したり、会社の信用が低下して取引先を失ったりすることもあるかもしれません。
このように、信用毀損行為によって被害者に損害を与えてしまった場合には、被害者がその損害を加害者に賠償請求することができるのです。
損害賠償額はときとして非常に高額になり、個人では到底支払えない金額になることもあります。
ネット上で不用意に他人の経済的信用にかかわる発言をすると、刑事罰が科されるだけでなく、訴えられて多額の損害賠償も求められる可能性があるので、注意が必要です。
ネット上の投稿は、匿名で行うことがほとんどです。
そのため、問題のある書き込みをしても「自分が投稿したとはわからないだろう。訴えられないだろう」と考える方がいるかもしれません。
しかし、現代ではいくら匿名であってもIPアドレス等を駆使して投稿者を特定することができてしまいます(「発信者情報開示請求」といいます)。
被害者が弁護士に依頼したり、警察が捜査をしたりして投稿者を突き止めるケースもあるため、ブログでもSNSでもネット掲示板でも、足跡を追われて責任追及される可能性があることを忘れてはなりません。
では、ネット上で他人の信用を毀損してしまったら、その後どのような流れになるのでしょうか。
この場合、投稿してすぐ何か起きることは少ないでしょう。
というのも、匿名の投稿者を特定するためには仮処分や裁判を通じて数ヶ月の時間を要するからです。
ただし、その間にプロバイダから「発信者情報開示照会書」という書類が送られてくることはあるかもしれません。
発信者情報開示照会書とは、被害者に対して契約者情報を開示して良いかどうか、契約者(投稿者)に意見をたずねるための書類です。
プロバイダは被害者から発信者情報開示請求を受けると、契約者に対して照会書を発送し、同意されれば任意で情報を開示します。
照会書が届くということは、被害者が投稿者特定のために具体的な手続を進めているということです。
開示に同意しなくても責任が重くなることはありませんが、いずれは特定される恐れがあるので、なるべく早く手を打つ必要があります。
その後、多くのケースでは数ヶ月以内に内容証明郵便などで慰謝料や営業損失分の損害賠償請求を求める書類が届くでしょう。
同時に、刑事告訴をされて警察に逮捕されたり事情聴取をされたりする可能性もあります。
何も対応せずに放置していると前科がついてしまうかもしれないので、注意しましょう。
信用毀損罪で刑事事件になりそうな場合、被害者と示談を進めることが大切です。
逮捕されると、最大23日間留置場に身柄拘束されたり、一生消えない前科がついてしまったりする可能性があります。
このようなことを避けるためには、早期に被害者と示談し、刑事告訴を取り下げてもらうことが重要です。
示談が成立すれば、被告人にとって良い情状となるので不起訴になる可能性も高いでしょう。
賠償金を払ってもらっても、失った信用を取り戻すことはできません。
むしろ、拡散の原因となった人から訂正してもらうことが、一番早く名誉や信用を回復することに繋がるでしょう。
そのため、ネット上で信用毀損行為をしたときに被害者と示談を進めると、賠償金を支払うだけではなく、投稿を行ったブログや掲示板などにおいて謝罪広告を求められることもあります。
以上のように、インターネット上の投稿で軽い気持ちで嘘の情報を流して信用毀損をしてしまったら、刑事責任や民事責任を追及されることがあります。
そのようなことにならないよう、ブログ・掲示板・SNSなどに投稿をするときには、くれぐれも慎重になりましょう。
また、万一責任を問われる自体に陥ったときには、早めに弁護士に対処法を相談することが重要です。
弁護士に依頼することで、理不尽な額の示談金を支払わなければならなかったり、交渉が決裂したりすることも回避できるかもしれません。
もし裁判に移行してしまったとしても、なるべく責任が軽くなるよう努めてくれるはずです。
トラブルが発生したら、なるべく早く弁護士に相談することをおすすめします。