侮辱罪で訴えるには? 証拠、刑事・民事の法的手続きを徹底解説

インターネット上で誹謗中傷を行った加害者(投稿者)は、名誉毀損罪や侮辱罪などの刑事責任と、被害者に対する損害賠償などの民事責任を負います。

証拠はどうするのか、侮辱罪で訴えるにはどうすればよいのでしょうか。

今回は、誹謗中傷の加害者に生じる法的責任や、被害者が加害者の責任を追及する方法、証拠集めなどをまとめました。

侮辱の責任を追及するために確保すべき証拠集め

侮辱罪で訴えるには、刑事・民事いずれの手続きをするにおいても、誹謗中傷の責任を追及するために、十分な証拠を確保することが大切です。

さまざまな調査方法を活用して、有力な証拠をできる限り豊富に集めましょう。具体的には以下のようなものです。

  • (例)
  • 投稿がなされたページのスクリーンショット
  • 投稿者のIPアドレス
  • IPアドレスから判明する加害者の個人情報
  • 誹謗中傷によって受けた損害を立証する証拠(医師の診断書、事業用の帳簿など)
    など

なお、刑事手続きにおいては、犯罪の立証に必要な証拠の収集は、捜査機関である検察・警察が行います。そのため本来であれば、被害者が証拠を集める必要はありません。

しかし、有力な証拠を揃えた状態で刑事告訴を行えば、捜査機関が本腰を入れて捜査に動く可能性が高くなります。

2. 誹謗中傷の加害者に生じる法的責任

侮辱罪で訴える際に、証拠などの確保も大事ですが、まず誹謗中傷の加害者には、刑事責任・民事責任の両方が発生することを知っておきましょう。

2-1. 刑事責任|名誉毀損罪・侮辱罪

インターネット上での誹謗中傷には、「名誉毀損罪」(刑法230条1項)または「侮辱罪」(刑法231条)が成立する可能性があります。

(1)名誉毀損罪

何らかの事実を摘示した上で、被害者の社会的名誉を傷つける言動を公然と行った場合に成立します。法定刑は「3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金」です。
(例)
「Aは不倫をしている」
「Bは暴力団との繋がりがある」

(2)侮辱罪

事実を摘示せずに、被害者の社会的名誉を傷つける言動を公然と行った場合に成立します。法定刑は「1年以下の懲役もしくは禁錮もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料」です。
(例)
「Cはブサイクだ」
「Dは性格がねじ曲がっている」

2-2. 民事責任|損害賠償・謝罪広告など

インターネット上での誹謗中傷をした加害者は、不法行為に基づき、被害者に生じた損害を回復する責任を負います。具体的には、以下の責任が発生します。

(1)損害賠償

誹謗中傷によって被害者が受けた損害(精神的損害、社会的な評判低下による損害など)を賠償しなければなりません(民法709条)。

(2)名誉回復措置

誹謗中傷によって被害者の名誉を毀損した場合、裁判所が加害者に対して、名誉を回復するのに適当な処分を命ずることがあります。名誉回復措置の典型例は、謝罪広告の掲載などです。

3. 侮辱について、加害者の責任を追及する方法

インターネット上での誹謗中傷につき、被害者が加害者の責任を追及する方法を、刑事責任・民事責任に分けて解説します。

3-1. 刑事責任の追及方法|刑事告訴

誹謗中傷に関する刑事責任の追及は、捜査機関である検察・警察が行います。

しかし、インターネット上での誹謗中傷は際限なく行われているため、捜査機関がそれらすべてを把握することはできません。そのため、被害者には捜査機関に対する「告訴」が認められています(刑事訴訟法230条)。

告訴とは、捜査機関に犯罪事実を申告し、処罰を求めることを意味します。一般的には、警察署の警察官に告訴状を提出して行います。

警察官は告訴を受けた場合、速やかに関連する書類と証拠物を検察官に送付しなければなりません(刑事訴訟法242条)。
また、加害者について起訴処分または不起訴処分を決定した場合、検察官には速やかにその旨を告訴人に通知することが義務付けられています(刑事訴訟法260条)。不起訴の場合には、その理由を告げることも必要です(刑事訴訟法261条)。

告訴した事件の加害者が必ず起訴・処罰されるわけではありませんが、捜査機関に捜査を促す点において、告訴には重要な意義があります。

3-2. 侮辱罪で訴えるには?民事責任の追及・示談交渉・訴訟の提起など

インターネット上での誹謗中傷や侮辱罪で訴えるには、まず加害者に対して損害賠償などを求めたい場合には、加害者との間で示談交渉を行いましょう。

示談交渉では、損害賠償の金額や支払方法、損害賠償以外に求める措置などにつき、被害者と加害者の間で協議を行います。合意に至った場合には、合意内容をまとめた和解合意書を締結し、それに従って損害賠償の精算等を行います。

誹謗中傷の加害者が損害賠償等に応じない場合は、裁判所に訴訟を提起します。訴訟において、誹謗中傷によって損害を被った事実を認定されれば、裁判所が加害者に対して損害賠償等を命ずる判決を言い渡します。

判決が確定したら、その内容に従って、加害者に損害賠償等の履行を求めましょう。もし加害者が損害賠償等を拒否する場合には、確定判決を債務名義として、裁判所に強制執行を申し立てることができます(民事執行法22条1号)。

なお、強制執行を申し立てる際には、差し押さえるべき加害者の財産を特定しなければなりません。加害者の財産の所在がわからない場合は、「財産開示手続」(民事執行法196条以下)や「第三者からの情報取得手続」(民事執行法204条以下)を申し立てましょう。

4. 投稿者が匿名の場合は「発信者情報開示命令」の申立て

誹謗中傷の投稿者が匿名の場合には、裁判所に「発信者情報開示命令」を申し立てることで、投稿者を特定できる可能性があります。

発信者情報開示命令は、投稿が行われたサイトの管理者(コンテンツ・プロバイダ)やインターネット接続業者(アクセス・プロバイダ)に対する、投稿者に関する情報(IPアドレスや氏名・住所など)の開示命令です。
投稿によって権利を侵害された被害者は、裁判所に発信者情報開示命令を申し立てることができます(プロバイダ責任制限法8条)。

発信者情報開示命令の制度は、2022年10月1日より施行された改正・プロバイダ責任制限法による新しい制度です。
従来の制度では、コンテンツ・プロバイダとアクセス・プロバイダに対する発信者情報開示請求を二段階に分けて行う必要がありました。しかし、発信者情報開示命令に関する手続きは1回で済むため、早期に投稿者を特定できるメリットがあります。

発信者情報開示命令の申立てにより、誹謗中傷の投稿者を特定したい場合には、弁護士にご相談ください。

参考:11. 発信者情報開示命令申立て|裁判所
https://www.courts.go.jp/tokyo/saiban/minzi_section09/hassinnsya_kaiji/index.html

証拠ない?侮辱の投稿が消されてしまっても、投稿者の責任を追及できるのか?

侮辱の投稿が消されて証拠集めるにも証拠ないと考えている方もいることでしょう。

誹謗中傷の投稿が削除されてしまっても、投稿の内容と日時がわかっていれば、投稿先のサイト管理者から情報開示を受けられる可能性があります。

具体的には、裁判所に対して投稿内容開示の仮処分命令を申し立て、その命令に基づいてサイト管理者に情報開示を求めます。

投稿についての手がかりがなくなってしまうと、サイト管理者から投稿内容等の情報開示を受けることはできません。そのため、誹謗中傷の投稿については、スクリーンショットなどで必ず証拠を確保しておきましょう。

また、削除された投稿のログについては、サイト管理者が比較的短期間で削除してしまうケースも多いです。投稿内容等についての情報開示を受けるためには、ログが削除される前に裁判所の仮処分命令を得る必要があります。

インターネット上の誹謗中傷に関する責任追及を行う場合は、証拠ないという場合も含めて、スピード感のある対応が求められますので、お早めに弁護士へご相談ください。

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本記事はネット誹謗中傷弁護士相談Cafeを運営するエファタ株式会社の編集部が執筆・監修を行いました。
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