優良誤認とは?景品表示法上の問題や違反事例などをわかりやすく解説
優良誤認表示とは?
優良誤認表示とは、簡単にいえば、
- 商品・サービスの品質が実際よりも優れていると偽って宣伝する
- 競合他社の商品・サービスよりも特に優れていると偽って宣伝する
この2つの行為のことです。
「優良誤認表示禁止に関する違反事例」で詳しくご紹介しますが、例えばA3ランク以下の牛肉をA5ランクの牛肉と宣伝する行為などは典型的な優良誤認表示例です。
景品表示法で禁止されている不当表示の一種
優良誤認表示は、景品表示法で禁止されている不当表示の一種です(景品表示法5条1号)。
優良誤認表示は、商品・サービスの品質に関する不当表示です。
景品表示法で禁止されている不当表示には、優良誤認表示以外にも以下の2つがあります。
①有利誤認表示
商品やサービスの価格その他の取引条件に関する不当表示です(景品表示法5条2号)。
たとえば、「自分だけに安く売ってくれる」と誤認させたり、競合他社よりもお得であるこことを偽って販売したりする行為が有利誤認表示に該当します。
②その他内閣総理大臣が指定する不当表示
一般消費者の誤認を引き起こして、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められる表示については、内閣総理大臣が個別に指定して禁止するものとされています。
2020年6月現在、具体的には以下の不当表示に関する指定がされています。
- 無果汁の清涼飲料水等についての表示
- 商品の原産国に関する不当な表示
- 消費者信用の融資費用に関する不当な表示
- 不動産のおとり広告に関する表示
- おとり広告に関する表示
- 有料老人ホームに関する不当な表示
優良誤認では幅広い表示が規制対象となる
優良誤認表示規制は、さまざまな表示に対して幅広く適用されます。
規制対象となる表示としては、たとえば以下のようなものが挙げられます。
- パッケージ
- ラベル
- 店内ディスプレイ
- パンフレット
- チラシ
- 新聞広告
- インターネット広告
- テレビCM
- ラジオ
- 訪問販売や電話でのセールストーク
優良誤認表示の要件は?
優良誤認表示に該当するための法律上の要件について、その意味する内容も含めて詳しく解説します。
景品表示法上の要件
まずは条文の内容を確認しておきましょう。
景品表示法5条1号に規定される優良誤認表示の要件は、以下のとおりです。
- 実際のものよりも著しく優良であると示すもの
または - 事実に相違して競争関係にある事業者に係るものよりも著しく優良であると示すもの
であって、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められるもの
「著しく優良であると示すもの」とは|社会的許容度を超える誇張・誇大は禁止
優良誤認表示に該当するためには、表示が実際の商品・サービスよりも「著しく優良であると示すもの」であることが必要になります。
これは、「広告宣伝には通常ある程度の誇張が含まれる」ということを前提としています。
したがって、通常の広告宣伝に見られる程度の誇張であれば許容されますが、社会的許容度を超えた誇張・誇大については、優良誤認表示として禁止されるということになります。
事業者の故意・過失の有無を問わない
優良誤認表示規制との関係では、民法上の不法行為などとは異なり、事業者の故意・過失がなかったとしても違反に該当する可能性があります。
事業者の故意・過失が要求されないのは、一般消費者保護という景品表示法の趣旨によっています。
つまり、一般消費者に対して優良誤認を与える表示をすること自体を問題視しているため、そのような表示は事業者の責任の有無を問わず一律排除すべきと考えられているのです。
優良誤認表示規制は一般消費者保護のための規定
優良誤認表示規制は、一般消費者が表示に騙されて、自主的かつ合理的な商品・サービスの選択ができなくなってしまう可能性を排除することを目的とした規定です。
したがって、違反の有無を判断するためには、一般消費者の視点に立って検討する必要があります。
違反の有無は一般消費者の「認識」を基準に判断される
優良誤認表示に該当するかどうかは、端的に言えば「その表示を見て、一般消費者がどのような印象を受けるか」ということを重視して判断されます。
つまり、社会常識や用語の一般的な意味などを基準に判断して、実際の商品・サービスと一般消費者が受ける印象の差が生じる可能性が高いと認められる場合には、優良誤認表示であると判断されるということです。
なお、基準となるのはあくまでも抽象的な「一般消費者」ですので、実際にその表示を見た消費者が優良誤認をしたことまでは不要です。
「一般消費者」は商品・サービスごとに異なる
一般消費者と一口に言っても、購入する可能性がある層というのは商品・サービスごとに異なります。
たとえばベビーカーについては、赤ちゃんのいる夫婦が主な購入層として想定されます。
赤ちゃんのいる夫婦は、一般的にベビーカーについての知識が豊富であったり、興味・関心があると考えられるので、少しの性能の違いが価格に影響するという前提で考えるべきでしょう。
これに対して、たとえば未婚の若い独身男性は、一般的にベビーカーについての関心が薄いと考えられます。
赤ちゃんのいる夫婦が主な購入層であるのに、未婚の若い独身男性を基準に優良誤認表示かどうかを判断するのは適切ではないでしょう。
このように、優良誤認表示に該当するかどうかは、想定される購入者層を正しく設定して判断する必要があります。
優良誤認表示禁止に関する違反事例
実際に優良誤認表示規制に違反した事例については、消費者庁が以下のページでまとめて紹介しています。
【参考PDF】消費者庁:景品表示法における違反事例集
以下では、紹介されている例の中の一部について解説します。
また、最近話題になった『100日後に死ぬワニ』や光触媒マスクの事例についても併せて解説します。
牛肉のランク偽装(措置命令日:平成23年3月3日)
牛肉加工食品を販売するにあたって、「ランクA4以上の高級黒毛和牛焼肉セット」と題して、A4またはA5等級の国産和牛のみを使用していることなどを表示しました。
しかし、実際には製造・加工に用いられた牛肉の大部分が、A4またはA5等級以外の格付けがされた牛肉でした。
牛肉に関する商品を購入しようとする一般消費者は、A4・A5等級の牛肉が通常の牛肉と比べて高級であるという認識を持っていると考えられます。
そのため、事実に反してA4またはA5等級の国産和牛のみを使用しているかのように表示する行為は優良誤認表示に該当し、禁止されます。
中古自動車の走行距離の過小表示(措置命令日:平成23年4月8日)
中古自動車の走行距離に関して、販売時には「95,000km」と表示されていたものの、実際の走行距離は94,948マイル(約152,800km)であり、記載された走行距離数を上回っていました。
中古自動車を購入する一般消費者は、走行距離が少ない車の方が残存する耐用年数が長く、価値が高いという認識を持っていると考えられます。
そのため、走行距離を過小に表示する行為は優良誤認表示に該当し、禁止されます。
予備校の合格実績の水増し(措置命令日:平成23年4月26日)
大学入試講座を提供する予備校が、ある年の大学合格実績について「東京大学43名、京都大学33名」などと表示していたところ、実際には東京大学15名、京都大学1名であるなど、記載された人数を下回っていました。
大学受験予備校を選択しようとする一般消費者は、名門大学への合格実績が多い予備校の方が、指導力が高く優れていると認識する傾向にあると考えられます。
そのため、大学合格実績を水増しする行為は優良誤認表示に該当し、禁止されます。
最近話題になった事例①|100日後に死ぬワニ
最近X(旧Twitter)などで話題になった4コマ漫画『100日後に死ぬワニ』の単行本が発売される際、「100日後の後日譚等 描き下ろし漫画28P収録!」という表示がなされました。
しかし、実際には描き下ろしの4コマ漫画は計6ページでした(その他に、描き下ろしの挿絵が20枚程度含まれていました。)。
この事例が優良誤認表示違反に該当するかについては議論があります。
ただ、X(旧Twitter)等で無料で公開されていた漫画の単行本を購入しようと考えるとき、無料公開分からどれだけ追加されたのかは、大きな関心事になることが多いでしょう。
そして、この漫画を手にする一般消費者としては、「描き下ろし漫画28P収録」という表示を見て、挿絵ではなく描き下ろしの4コマ漫画が新しく28ページ分収録されているという認識を持つ可能性が高いと考えられます。
そのため、このような表示は優良誤認表示とされる可能性があるといえます。
最近話題になった事例②|光触媒マスク
「花粉やウイルスを分解し水に変える」というセールス文句を掲げて販売されたマスクに関して、2020年6月19日、消費者庁は医薬品販売業者に対して課徴金857万円の納付を命じました。
マスクを購入しようとする一般消費者は、このような表示を見て、マスクに花粉やウイルスを分解して水に変える機能があると信用する可能性が高いと考えられます。
しかし、実際にはマスクにそのような機能はないと認定されたため、優良誤認表示違反を根拠に措置命令・課徴金納付命令が行われました。
優良誤認表示違反の制裁(行政処分・刑事罰)
事業者が優良誤認表示規制に違反した場合には、大きく分けて①措置命令と②課徴金納付命令の2つの行政処分が下される可能性があります。
また、措置命令違反には刑事罰もあります。
差し止めなどの措置命令
内閣総理大臣は、優良誤認表示規制に違反している事業者などに対して、以下の内容の必要な措置を行うように命ずることができます(景品表示法7条1項)。
- 違反行為の差し止め
- 違反行為が再び行われることを防止するために必要な事項
- これらの実施に関連する公示
- その他必要な事項
事業者が措置命令に違反した場合には刑事罰の対象となり、2年以下の懲役または300万円以下の罰金(懲役と罰金が併科される場合もあり)に処せられてしまいます(景品表示法36条1項、2項)。
なお、内閣総理大臣は、優良誤認表示違反の有無を判断するため、事業者に対して表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料の提出を求めることができるとされています(景品表示法7条2項)。
この場合において、事業者から資料が提出されないときは、優良誤認表示違反とみなされます。
課徴金納付命令
また、事業者が故意または過失により優良誤認表示違反を犯した場合、内閣総理大臣は事業者に対して課徴金の納付を命ずることができるとされています(景品表示法8条1項)。
課徴金の金額は、原則として、優良誤認表示を行っていた期間中の対象商品の売上の3%です。
(ただし、一旦優良誤認表示をやめたとしても、その後6か月以内に優良誤認表示を再開した場合には、空白期間の売上についても課徴金の対象になります。
また、課徴金の対象期間は最長3年間です。)
まとめ
商品やサービスを販売する事業者による優良誤認表示は、消費者の信頼に対する裏切り行為といえます。
近年ではSNSの発展などにより、優良誤認表示に対する世間の批判的な目はいっそう強まっています。
しかしその反面、優良誤認表示であるにもかかわらず信ぴょう性を持ってしまった広告などがSNSで拡散された場合、非常に多くの消費者が被害を受けてしまうことにつながりかねません。
インターネット・SNS全盛の現代だからこそ、横行する優良誤認表示に対して、当局による適切なモニタリング・処分が行われることが期待されます。