画像を引用する際のルールは?著作権法を踏まえた対応が必要
WEB記事、ニュース記事、卒論やブログ記事などを書く際に、書籍や論文、インターネット上の記事などから画像を引用する場合、著作権法上のルールを守る必要があります。
著作物性のある画像を、引用ルールを守らずに勝手に転載すると、権利者からの損害賠償請求を受けたり、最悪の場合は刑事罰を科されてしまったりする可能性があるので、十分注意が必要です。
出典・引用のルールは、ポイントを押さえて対応すればそれほど難しいものではありませんので、この機会にしっかり理解しておきましょう。
この記事では、卒論、レポートやブログ記事作成するなどで画像を引用する際のルールについて、法律的な観点をわかりやすく解説します。
画像の無断転載は著作権法違反
一般的に、著作物性のある画像を権利者に無断で転載する行為は、著作権法という法律に違反します。
ただし、著作権法には引用に関する規定が設けられており、引用のルールを守る限りにおいて、例外的に権利者の許可なく画像を引用できるという構造になっています。
どういうことなのか、詳しく見ていきましょう。
無断転載は複製権・公衆送信権の侵害にあたる
イラスト・写真・図表などの画像は、それがオリジナルである場合には、作者が有する思想または感情が創作的に表現されたものといえます。
このように、作者の創作性が発露した結果作られたものについては、「著作権」が認められます(著作権法2条1項1号)。
著作権者は、著作権法に列挙されているさまざまな行為を独占的に行う権利を有しています。
著作権者以外がこれらの行為を行う場合には、原則として著作権者の許可が必要です。
画像の転載に関しては、著作権者が有する「複製権」と「公衆送信権」が問題となります。
著作権法21条 著作者は、その著作物を複製する権利を専有する。
(公衆送信権等)
著作権法23条 著作者は、その著作物について、公衆送信(自動公衆送信の場合にあっては、送信可能化を含む。)を行う権利を専有する。
2項 著作者は、公衆送信されるその著作物を受信装置を用いて公に伝達する権利を専有する。
画像を無断転載する場合には、著作権者に無断でその画像をコピー(複製)することになりますので、「複製権」の侵害に該当します。
また、無断転載の画像が含まれた記事などをインターネット上で公開するような場合には、著作権者に無断で当該画像を公に向けて送信(公衆送信)することになりますので、同時に「公衆送信権」の侵害にも該当します。
このように、著作権者に無断で画像を転載することは、原則として著作権侵害の違法行為に該当し、民事上の損害賠償や刑事罰の対象となります。
なお、私的利用の範囲を超えていると認められるものであれば、どのような媒体を用いる場合であっても、著作権法の規制対象となります。
たとえば、以下の媒体などを用いて画像を無断転載する場合、すべて著作権侵害に該当する可能性があるので注意が必要です。
- テレビ番組
- 映画
- インターネット上の記事(ホームぺージ、ブログ、ニュースサイトなど)
- 書籍
- プレゼンテーション(パワポ)
- SNS(X(旧Twitter)、Instagram、Facebookなど)
- レポート・卒論
- 論文
など
引用のルールを守っていれば画像の掲載が認められる
ただ、他の人が作成・公表した画像をもとにして論文などで自分の意見を述べたり、画像自体を批評したりしたい場合もあるでしょう。
「さまざまな意見を自由に戦わせて、より良い結論を得る」という表現の自由の趣旨からいっても、こうした活動は非常に重要な意味を持ちます。
しかし、上記のような正当な言論活動の一環として画像を引用する場合にも、逐一著作権者の許可を取らなければならないとすれば、表現の自由が後退してしまうことになりかねません。
そこで著作権法は、報道・批評・研究などの目的による正当な引用については、著作権者の許可を得ることなく行ってよいとする例外を設けています(著作権法32条1項)。
引用の方法については、著作権法および判例によって細かいルールが定められており、引用の際にはこれらのルールを守らなければなりません。
次の項目から、引用についての具体的なルールを見ていきましょう。
著作物である画像の引用が認められるための条件は?
どのような条件の下で画像の引用が認められるかについて、具体的に解説します。
著作権法上の引用に関するルールを定める条文とは?
著作権法32条1項は、著作物の引用に関する例外について、以下のとおり定めています。
著作権法32条1項 公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。
「公正な慣行に合致」「引用の目的上正当な範囲内」という要件については、判例・実務において解釈が整備されていますので、次の項目で詳しく解説します。
また、著作権法48条1項は、上記の引用ルールによって著作物を引用する場合には、必ず出典を明記しなければならないことを定めています。
著作権法48条1項 次の各号に掲げる場合には、当該各号に規定する著作物の出所を、その複製又は利用の態様に応じ合理的と認められる方法及び程度により、明示しなければならない。
一 第三十二条(省略)の規定により著作物を複製する場合
二・三 (省略)
出典の具体的な記載方法についても、あとで解説しますので参考にしてください。
著作物である画像を引用する際の6つのルール
著作権の対象となっている画像を引用する際には、大きく分けて以下の6つの要件を満たす必要があります。
①公表された著作物であること
著作権法32条1項は、引用が可能なのは「公表された著作物」であることを明記しています。
したがって、未公表の画像を、引用と称して転載することは認められません。
②引用する必要があること
引用はあくまでも、自分が書いた文章などを補強する目的で行われるものです。
そのため、説明などの流れの都合上、画像を引用することが必要である場合のみ、引用が認められます。
③引用箇所とそれ以外が明瞭に区別されていること
最高裁昭和55年3月28日判決は、著作権者の許可が不要となる引用の条件として、「引用して利用する側の著作物と、引用されて利用される側の著作物とを明瞭に区別して認識することができ」ることが必要と判示しています(明瞭区別性)。
たとえば文章であれば、引用部分に鍵括弧を付したり、字体を変えたりすることによって、自分で書いた部分と引用部分が明確に区別できるようにしておくことが必要です。
画像のケースでは、引用画像には出典を明記し、自分で作った画像には「自作」と記載しておくなどの方法が考えられるでしょう。
④本文が主、引用部分が従の関係にあること
同じく最高裁昭和55年3月28日判決は、自己の著作物が主、引用著作物が従の関係にあると認められることも、引用の要件となる旨を判示しています。
両者が主従関係にあるかどうかは、文章の量や、要点・力点がどちらに置かれているかなどの観点から判断されます。
画像を引用する際には、画像自体が記事などのメインになってしまっていないかを事前に確認しましょう。
⑤引用著作物に改変が加えられていないこと
著作権者には、「翻案権」が認められています(著作権法27条)。
「翻案」とは、元の著作物の特徴を維持したうえで、当該著作物を改変する行為をいいます。
翻案を行うことができるのは、原則として著作権者のみです。
また、著作権法47条第1項第3号の規定から、引用の場合にも翻案は認められないと解されています。
したがって、画像を引用する場合には、トリミングや加工などを行うことは認められず、そのまま掲載をしなければなりません。
なお、画像内に著作権表示が付されている場合には、その部分を消さずにそのまま掲載することが必要となります。
⑥出典を明記すること
前述のとおり、著作権法48条1項1号により、画像を引用する際には出典の明記が必要です。
具体的な出典の記載方法については、次の項目で解説します。
レポート等、画像・写真を引用時の出典の書き方
出典の記載方法、書き方については、法律で厳密に決まっているわけではありませんが、出典元の媒体ごとに大まかな慣行が存在します。
以下では、①論文から引用する場合、②書籍から引用する場合、③ウェブサイトから引用する場合の3つについて、具体的な出典の書き方を解説します。
①論文から引用する場合
例えばレポート作成時に、論文から画像を引用する場合、以下の事項を記載します。書き方の例は以下のとおりです。
- 著者名
- 発表年
- 論文のタイトル
- 掲載誌名(+巻数)
- 所在ページ
(例)A野B郎(2020)『画像の引用方法についての考察』X書誌3, 45
②書籍から引用する場合
例えばレポート作成時に、書籍から画像を引用する場合、以下の事項を記載します。書き方の例は以下のとおりです。
- 著者名
- 出版年
- タイトル
- 発行所
(例)A野B郎(2020)『画像の引用方法を徹底解説する本 』Y出版
③ウェブサイトから引用する場合
ブログ記事作成時に、ウェブサイトから画像を引用する場合、以下の事項を記載します。書き方の例は以下のとおりです。
- 著者名
- ウェブページのタイトル
- URL
- 最終アクセスの年月日
(例)A野B郎「画像の引用方法を徹底解説!」A野B郎のホームぺージ(最終閲覧日:2020年8月1日)https://...
他の人が引用した画像をさらに引用する場合の注意点について
他の人が書籍・論文・ウェブページなどで引用した画像を、さらに自分が引用したいと考える場合もあるかもしれません。
こうした行為は俗に「孫引き」と呼ばれますが、孫引きは積極的に推奨される行為ではありません。
適法に引用された画像であれば、出典が明記されているはずですので、出典をたどって原典(一次資料)から画像を引用するというのが原則です。
しかし、一次資料が絶版などによりアクセス不能の場合など、やむを得ず孫引きを行いたいというケースもあるでしょう。
その際に、著作権法上注意しなければならない点について解説します。
引用元に加えて原典(一次資料)の出典も併記する
孫引きは、引用元の資料からの引用であると同時に、原典(一次資料)からの引用でもあると理解されます。
そのため、著作権法48条1項の規定を踏まえて、引用元に加えて原典(一次資料)の出典も併記するようにしましょう。
映画のキャプチャ画像など、オリジナルから改変された画像は引用できる?
インターネット上などには、たとえば映画のキャプチャ画像など、オリジナルから切り取ったり、編集したりして掲載された画像が存在しています。
しかし、すでに解説したとおり、著作物である画像を引用する際の翻案は認められません。
そのため、このような画像は適法に引用されたものではなく、無断転載画像に該当する可能性が高いといえます。
無断転載画像を引用と称して掲載する行為は、著作権法32条1項に規定される、「公正な慣行に合致」「引用の目的上正当な範囲内」という適法な引用の要件を満たし得ません。
そのため、オリジナルから改変された画像の引用は避けるべきでしょう。
著作権以外にも、肖像権とパブリシティ権に注意
画像を引用する際には、著作権以外にも、他人の「肖像権」と「パブリシティ権」を侵害しないように注意する必要があります。
肖像権とは?
肖像権は、無断で他人に自分の容姿などを撮影されたり、公開されたりしない権利をいいます。
たとえば、写り込みや隠し撮りなど、本人の予期せぬ形で撮影された写真などについては、引用を避けるべきでしょう。
パブリシティ権とは?
パブリシティ権は、自分の画像・氏名などを利用することによって得られる経済的利益をいいます。
たとえば、その画像を見たいという人を集客することを主たる目的として画像を引用することは避けましょう。
なお、このような引用の仕方は、著作物の引用に関する「主従の関係」の論点との関係でも問題があるので注意が必要です。
まとめ
他人が著作権を持つ画像を引用する際には、レポートを作成するにしろ、ブログ記事にしろ、著作権法上のルールを守って適切に行う必要があります。
仮に著作物の引用に関するルール違反を指摘された場合、
- 該当ページの削除
- コメント欄の炎上
- 刑事告訴
- 損害賠償請求
など、さまざまな弊害が発生してしまう可能性がありますので、書き方など事前のチェックを怠らないようにしましょう。