日本における「忘れられる権利」vs「知る権利」の最新情報と問題点

Pencil with eraser

忘れられる権利とは、Googleなどの検索結果に過去の犯罪に関する情報が掲載されないよう、検索結果から削除してもらう権利のことです。

犯罪行為があっても、そのことがいつまでもネット上に掲載されていては、本人がいつまでも不利益を受け続けて更生の妨げになってしまうため、忘れられる権利の必要性が取り上げられています。

しかし、忘れられる権利は、憲法上、国民に保障されている重要な知る権利や表現の自由と抵触する関係にあるので、認めるには慎重になる必要もあります。

今回は、忘れられる権利とその問題点、情報を削除してもらうための方法について解説します。

忘れられる権利とは

自分や周囲の人などに犯罪歴がある場合、いったんそれに関するニュースが流れてしまうと、いつまでもネット上にそのニュースが掲載され続けるので大きな不利益を受けます。

軽微な事件であっても、Googleなどの検索サービスを利用すると、ニュースの記事が出てきてしまいます。

そういった状態が続くと、たとえば「就職の際などに、人事担当者により実名検索」が行われ、その結果、採用を見送られてしまうなど、いろいろな問題が起こります。

そこで、犯罪が行われてから数年以上が経過したら、Googleなどの検索結果に記事を表示しないようにしてもらう権利である「忘れられる権利」を認めようという動きがあります。

実際に、忘れられる権利を主張してGoogleなどに対して検索結果から対象の記事を削除するように求めて裁判をした事例もあります。

日本での忘れられる権利に関する裁判例

以下では、実際に忘れられる権利を主張して日本の裁判所で争われた事例をご紹介します。
地裁から最高裁まで3つご紹介しますが、一つの同じ事案に対する判断です。

さいたま地裁平成27年12月22日決定の判断

このケースでは、過去にある男性が児童買春・ポルノ禁止法違反罪によって50万円の罰金刑を受けましたが、事件後3年が経過してもまだ実名と住所で検索すると、犯罪に関する記事が表示されていました。

そこで男性は、「人格権を侵害されている」として、さいたま地方裁判所に対し、その検索結果の削除を求める仮処分を申し立てました。

原審のさいたま地方裁判所は、平成27年12月22日、犯罪が行われたときからある程度の期間が経過すると、過去の犯罪事実について社会から「忘れられる権利」があると判断し、検索結果から男性の逮捕歴を削除するように命令を下しました。

東京高裁平成28年7月12日決定の判断

これに対し、Google側が東京高等裁判所に対して抗告をしました。抗告審の東京高等裁判所は、原審のさいたま地裁による決定を取り消して、男性の申し立てを却下してしまいました。

東京高等裁判所は、忘れられる権利を否定したということなのでしょうか?

東京高裁の決定では、「罰金を納付してから5年以内の現段階では、いまだ公共性は失われていない」と判断されています。

そして、忘れられる権利については「名誉権やプライバシー権に基づく差し止め請求と同じものであり、忘れられる権利として独立して判断する必要がない」とも指摘しています。

このようなことからすると、東京高裁は「忘れられる権利」という名の権利を否定したとも言えます。

また、男性のプライバシー権にもとづく「検索結果の削除請求」についても、事実が公共性を有することや、いまだ十分な時間が経過していないことなどを理由として認めませんでした。

最高裁平成29年1月31日決定の判断

東京高裁の決定に対し、男性が最高裁に許可抗告したことで、最高裁から一定の判断が示されました。

結論から言えば、最高裁は「忘れられる権利」についてそもそも言及しませんでしたが、Googleなどの検索結果からの削除については以下の事項を考慮して判断するとして、一定の場合には検索結果からの削除が認められることを述べています。

  1. 検索結果に表示されるプライバシーの性質及び内容
  2. 検索結果に表示されることで、その者のプライバシーに属する事実が伝達される範囲とその者が被る具体的被害の程度
  3. その者の社会的地位や影響力
  4. 検索結果に表示された記事等の目的や意義
  5. 上記記事等が掲載された時の社会的状況とその後の変化
  6. 上記記事等にプライバシーに属する事実を記載する必要性
    …など

つまり、「忘れられる権利」と実質的には同様の判断を「プライバシー」に関する権利の中で行うものと考えられます。
「忘れられない権利」という名称は登場しませんが、検索結果からの削除を否定した判例ではありません。

今後は、この最高裁決定の基準によって削除が判断されることになるでしょう。

最高裁平成29年1月31日決定
(上記1~6)など,当該事実を公表されない法的利益と当該URL等情報を検索結果として提供する理由に関する諸事情を比較衡量して判断すべきもので,その結果,当該事実を公表されない法的利益が優越することが明らかな場合には,検索事業者に対し,当該URL等情報を検索結果から削除することを求めることができる

なぜ忘れられる権利が認められない?

最高裁が「忘れられる権利」という名称で具体的な権利性を認めなかった(判断しなかった)理由としては、知る権利や表現の自由との対立があります。

これについては「忘れられる権利の問題点」で解説します。

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忘れられる権利が認められてきた経緯

このように、過去の犯罪履歴に関する情報記事が検索結果に反映されないようにするための「忘れられる権利」は、どこで発生してどのように発展してきた権利なのでしょうか?

忘れられる権利は、もともとEU、ヨーロッパで発祥し、広がってきた概念です。

2011年11月、フランス人の女性が過去に撮影したヌード写真が氏名とともにネット上で掲載されていたことについて、この女性はGoogleに対して削除請求をしました。

これに対し、欧州司法裁判所は女性の訴えを認めてGoogleに対して削除命令を出しました。

この決定が、世界で最初の「忘れられる権利」を認めた判断であると言われています。

忘れられる権利が認められた影響

その後、2014年5月には、スペイン人男性が、過去に社会保障費の支払を滞納していた事実を記載した新聞記事へのリンクの削除を求める事件がありましたが、ここでも男性の請求が認容されています。

ヨーロッパでは、こうした意識の高まりから、忘れられる権利についての議論が繰り返されて、2016年4月、欧州議会で「一般データ保護規則」(General Data Protection Regulation・GDPR)が可決され、その17条において「忘れられる権利」が明文化されることとなりました。

このことにより、自分の過去の犯罪歴がyahooやGoogleの検索結果に掲載されている場合には、それらの事業者に対して検索結果から記事の表示と情報へのリンクを削除する義務を負うことになりました。

忘れられる権利の判決を受けてGoogle側の対応

欧州司法裁判所の判決を受けた後、Googleは、EU Privacy Removal(削除を依頼できるフォーム)を提供しています。

フォームの設置依頼後、Google側には多くの削除依頼が申請されております。

そのレポートを『欧州のプライバシーに基づく検索結果の削除リクエスト』で、2014 年 5 月 29 日以降に Google が受け取ったリクエストの総数と除外がリクエストされた URL の総数を示しています。

2018/12/21の実績ですと、除外リクエストされた件数が755,934、 除外がリクエストされた URL数が2,903,502ページに上ります。

そのうち、除外されたURLの総数は、44.1%に上ります

リンクの削除が最も多かったサイトはフェイスブックで、Twitter、TouTubeなどSNSが多いです。

忘れられる権利が登場した事で、欧州ではGoogleも対応せざるを得なくなり、情報の削除を求める人が本人だと証明を行い、該当する理由が認められれば、十分にデータを削除してもらえる余地が生まれています。特に、snsでの個人的な情報は保護される方向になったといえるでしょう。

忘れられる権利の必要性

次に、日本における忘れられる権利の必要性と重要性を考えてみましょう。

繰り返しになりますが、忘れられる権利とは、インターネット上の記事そのものの削除請求ではなく「Googleなどの検索結果に表示される情報を削除」してもらう権利のことです。

通常、サイト上に掲載されている情報は、個別にそのサイトの管理者に対して名誉毀損やプライバシー権侵害などを利用して削除請求をすべきものです。

しかし、現代のインターネット社会では、膨大なサイト数があるので、すべてのサイト管理者に対しこのような請求をすることはほとんど不可能です。

そこで、検索結果そのものに表示させないようにして、記事を閲覧される機会を減らすことが重要です。インターネット記事が閲覧されるとき、ほとんどのケースで検索によって記事にアクセスされることになるので、検索結果にさえ表示されなければほとんどのケースで記事へのアクセスを防ぐことができるからです。

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そこで、忘れられる権利を認め、検索結果に表示させないようにすれば、たとえ記事そのものがネット上に残っていてもそれを見られずに済みます。

このようにすると、1つ1つのサイト管理者に記事削除請求をすることなしに、前科情報などを周囲に知られずに済むので、情報の本人や情報によって不利益を受ける周囲の人(家族など)にとっては大きな意義があるでしょう。

いつまでも逮捕歴や前科情報があると、就職などが困難になって本人の更生も妨げられることがあるので、一定のケースでは忘れられる権利を認める意義は確かにあります。

 
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忘れられる権利の問題点

忘れられる権利は、情報の本人が更生してやり直すために意義があるものですが、これをやみくもに認めることには問題があります。

もっとも大きい問題点は、「忘れられる権利」と国民の「知る権利」や「表現の自由」との対立です。

憲法は国民に「表現の自由」と「知る権利」を認めています。表現の自由があるから、日本国民は日本の国内で自分の好きなことを好きな方法で表現することができます。

また、国民であれば好きな情報にアクセスすることができます。国が検閲をしてテレビや本の内容を規制することもありません。これらの表現の自由や知る権利は、民主主義の根本となる重要な権利なので、尊重する必要があります。

ところが、「忘れられる権利」はこれらの「表現の自由」や「知る権利」を制限する性質を持ちます。

「知る権利」VS「忘れられる権利」

逮捕歴や前科に関するものであっても、それを一方的に検索結果に表示させないようにすることは、「表現の自由」を侵害する可能性がありますし、情報にアクセスできなくなる国民の「知る権利」も侵害してしまうおそれがあります。

このように、「忘れられる権利」を認めると、民主主義の根幹である重要な「表現の自由」や「知る権利」を制限することにつながるので、これを認める場合にはくれぐれも慎重になる必要があるのです。

「知る権利」よりも「忘れられる権利」が勝り、名誉毀損やプライバシー侵害の裁判が次々に認められるようになれば、インターネットのあり方は変わってしまい、情報発信が弱体化する恐れがあります。

「忘れられる権利」が強調され過ぎるデメリットは、ネットで自由に発言ができない、率直な口コミレビューができなくなるなど、ネットの魅力を失う可能性があります。

個人の情報を掲載する事で、訴えられる可能性が高まるインターネット環境では、積極的に発信する意欲が削がれますし、リスクを取ってでも活用しようとする人はいなくなります。

本人にとっては、一刻もインターネットから排除してもらいたい情報でも、簡単に決められる問題ではなく、慎重に判断して対応するだけの理由があります。

忘れられる権利と検索結果の責任

さらに、GoogleやYahooは、検索結果について責任を持つのかという問題もあります。

これらの事業者は、検索ユーザーの動向と独自のアルゴリズムに従い、単に検索結果を機械的に表示しているだけで、自ら選別して問題のある情報を掲載しているわけではありません。

それにもかかわらず、忘れられる権利基づき、検索事業者に対して検索結果からの削除を命じることが果たして妥当かという問題です。

さらには、コストの問題もあります。検索結果から特定の記事を削除することにはそれなりのコストがかかりますし、1つ1つは大きくなくても件数がかさなると莫大な費用になってくる可能性もあります。

これらのコスト負担を検索事業者である一企業だけが負担すべきなのか、また負担出来るのかという問題もあり得ます。

以上のように、忘れられる権利は、重要であることは間違いがありませんが、同時にいろいろな問題もはらんでいることに注意が必要です。

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忘れられる権利が日本で認めるか?

以上の議論を前提として、結局、日本で忘れられる権利を認めるべきかどうかを考えてみましょう。

最高裁は「忘れられる権利」という名称こそ使わなかったものの、実質的には「プライバシー権」の中で同様の判断を行いました。
また、欧州議会の定めた規則(GDPR)では明示的に認められています。

とはいえ、忘れられる権利は、上記のように、民主主義の根幹となる重要な権利である表現の自由や知る権利を侵害する危険性を持つ権利です。

やみくもに認めると、安易に削除請求が大量に行われて混乱状態になってしまったり、検索結果の中立性や信頼性が損なわれてしまったりするおそれもあります。

そこで、忘れられる権利を認めるとしても、充分慎重になる必要があります。

また、検索結果の削除請求をするなら、あえて忘れられる権利を根拠しなくても、最高裁が行ったように名誉毀損やプライバシー権侵害などによって判断できる場合が多いです。

このようなことからすると、あえて忘れられる権利を今すぐ認める必要性はまだないと考えるのが妥当であると言えるでしょう。

今後、忘れられる権利を認めるとしても、具体的にどのようなケースでどの程度認めるのかなど、充分に議論を尽くした上で、表現の自由や知る権利を不当に侵害しないように充分配慮した内容の法規定を行う必要があると言えます。

将来にわたってさらに社会における忘れられる権利への関心が高まり、国民的議論も尽くされて機が熟した段階で、忘れられる権利を明文化する方法によっても十分対応ができると考えられます。

忘れられる権利と逮捕歴記事の削除

現段階においては、忘れられる権利は明文化されていません。

ただ、権利侵害があるといえるなら、名誉権やプライバシー権などにもとづいて、逮捕歴や前科の記事削除請求や検索結果の削除請求が認められる可能性もあります。

このような判断について、素人が自分で適切に行うことは極めて難しいです。また、裁判所を利用した手続きになるので、素人が自分ですすめることも相当困難です。

そこで、自分の逮捕歴や前科情報を検索結果から削除してほしいと考えている場合「ネットトラブルなどの問題に強い弁護士」に相談することが重要です。

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弁護士であれば、法的な観点から、実際に記事削除や検索結果からの削除が認められるかどうかや、削除してもらうための適切な方法を判断して、可能性があれば実際に事件を受任して手続をすすめてくれるでしょう。

これらの情報は、掲載されている限り拡散や閲覧の可能性があり、早めに削除してもらう必要性が高いです。今、忘れられる権利に関心を持っていて、自分の情報を削除してほしいと望んでいる場合には、早めにネット問題に強い弁護士を探して相談を受けて、適切な方法で手続をすすめてもらうことをおすすめします。

まとめ

忘れられる権利とは、過去の犯罪に関する情報などがGoogleなどの検索結果に表示されないように削除を求める権利のことです。

忘れられる権利は、情報の本人が更生するためには重要な権利ですが、反面国民の重要な権利である表現の自由や知る権利を制限する危険性がある問題があります。

忘れられる権利が日本で広く認められるようになるためには、いましばらく時間をおいてしっかり議論を尽くし、機が熟すのを待つ必要があるでしょう。

もし今前科情報がネット上に掲載されて困っているなら、早めにネット問題に強い弁護士に相談をして、適切な手続きをとってもらうようにしましょう。

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