名誉毀損とは|構成要件、罪、時効、事例をわかりやすく解説
ネットで他人を誹謗中傷すると「名誉毀損」となって相手から刑事告訴や損害賠償請求をされる可能性があります。一方誹謗中傷…[続きを読む]
ネットの名誉毀損行為で刑事告訴は可能なんでしょうか?それとも、ネットの誹謗中傷程度だと警察は動かないのでしょうか?
特にTwitter等SNSを利用していると、謂れのない誹謗中傷を受けることがあります。
他にも、個人情報の晒しやなりすましなど、ネットトラブルは後を絶ちません。
このようなネットトラブルに巻き込まれたとき、警察に加害者を逮捕してほしいと思う人もいるでしょう。
今回は、ネット名誉毀損に焦点を当て、TwitterなどのSNSで誹謗中傷や嫌がらせ、晒しなどの被害を受けた場合に刑事告訴をして、警察に動いてもらい加害者を逮捕する方法、また警察が窓口で相談にのるのか・動かないのかなどを解説します。
目次
Twitter等のSNS上における嫌がらせや晒し行為は、名誉毀損罪・侮辱罪・リベンジポルノ防止法違反などにあたる可能性があり、警察に刑事告訴をして逮捕してもらって加害者に刑事罰を受けさせることができるはずです。
しかし現実では、ネット上で被害を受けたからと言って必ずしも警察が動いてくれるわけではありません。
警察が逮捕に向けて動くには、犯罪が起こったと疑われる捜査の端緒、証拠に基づいて犯罪が行われたという要件に該当することが必要なのです。
一般的に、警察はネット犯罪の取り締まりや刑事告訴の対応に消極的なのではないかと言われています。
実際、ネット犯罪は相談件数の割に受理件数が少ないです。具体的にいうと、名誉毀損や誹謗中傷による相談件数は平成30年で1万件を超えていますが、相談受理件数は200件程度にとどまっています。
【参考】平成30年におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について
上記のように、警察が名誉毀損の取り締まり、刑事告訴の対応に消極的なのは、そもそも犯罪が成立するかどうかの見極めが難しく、立証が困難であったり、専門家がいなかったりすることが原因となっていると考えられます。
被害を訴えるときに、証拠をもって客観的に名誉毀損罪に該当すると判断できないと警察は動いてくれないのです。
では、名誉毀損罪の構成要件とはなんでしょうか。簡単に見てみましょう。
名誉毀損罪は、刑法第230条第1項で以下のように定められています。
ここでいう「公然と」とは、不特定多数に向けてという意味です。
インターネット・SNS上の書き込みの場合、この要件は基本的に満たすといっていいでしょう。
また「事実を適示し」とは、”その事実の有無にかかわらず”と書いてあるように、真実であるか嘘であるかは問いません。
さらに、名誉毀損罪は”特定の人の社会的評価を低下させているか”が問題になります。
たとえば、相手が特定されていない掲示板の誹謗中傷書き込みについて、「この書き込みは自分のことだと思う」などと思い込みによって警察に相談しても、実際に動いてくれることはないでしょう。
また、「ぼくとあの人とは仲が良くないです」という投稿を不快に感じたとしても、社会的評価を低下させているとまでは言えないため、名誉毀損が成立する可能性は低いですし、刑事告訴をしても失敗するでしょう。
なお、名誉毀損罪の構成要件に該当する場合でも、次の3つの条件をすべて満たす場合は免責されます。
例えば、議員の賄賂に関する情報を掴んで発信したような場合には、上記の要件を満たすので名誉毀損罪に問われることはありません。
名誉毀損で刑事告訴をして逮捕してもらうためには、公訴時効にも注意が必要です。
犯罪にも時効があるので、問題となる行為からあまりに時間が経過していると責任を追及することができなくなります。
刑事上名誉毀損罪の公訴時効は3年なので、犯罪行為が終わった時から3年が経過すると、もはや警察に相談に行っても動いてもらうことができません(刑事訴訟法253条1項)。
ただ、公訴時効にかかる期間と民法上の不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効にかかる期間は異なります。
損害賠償請求権の消滅時効は、加害者を知った時から3年間か不法行為をされた時から20年間のいずれか早いほうに成立し、公訴時効よりも時間があります。
警察が動かない場合でも、刑事告訴ができなそうな場合でも、民事裁判による損害賠償請求ができる可能性は十分にあります。
詳しくは、以下のページをご参照ください。
ネット上の名誉毀損について警察が消極的な面もあることは否めませんが、実際に警察が動いて名誉毀損罪で逮捕されている事例もあります。
実際に名誉毀損によって逮捕された具体例を確認してみましょう。
2017年に起きた東名高速道路あおり運転事故において、無関係の会社を容疑者の勤務先と思わせるような書き込みしたとして、男性が名誉毀損で逮捕された事例です。
加害者がネット掲示板に会社のURLなどを貼り付けたことで会社に苦情や無言電話が相次ぎ、一時的に休業にまで追い込まれました。
相手は特定され、その後、最高裁まで争った結果、検察側の主張が認められ罰金30万円が確定しました。
暴露系YouTuberとして活動していた男性が、大手事務所に所属するタレントを名誉毀損したとして逮捕された事例です。
加害者となった男性は、大手YouTuber事務所に所属している当時中学生のタレントについて、「いじめを行っていた」というような内容の動画をあげていました。
これに対して被害者は事実を否定し、事務所も動画削除などの対応を求めましたが、男性が警告を無視したため法的処置に踏み切ったそうです。
その後、加害者は板橋警察署により名誉毀損罪を被疑事実として逮捕されました。
このように、ネットにおける誹謗中傷でも、場合によっては警察が逮捕・起訴してくれることがあります。
懲役刑、ときには実刑判決となることもあるので、最初から刑事告訴を諦める必要はありません。
警察に被害申告する方法としては「被害届」と「告訴状」の2つがあります。
被害届とは、単に「被害を受けた」と報告する申告書です。
これに対し、告訴状は「被害を受けたので相手を処罰してほしい」と警察に申し立てて、刑事告訴するための書類です。
警察が告訴状を受理したら、基本的にそれに従って捜査を行い、相手を逮捕します。
なお、名誉毀損罪は「親告罪」といって、警察が動くには本人からの告訴状が必要になるタイプの犯罪となります。
まずは被害届を提出する方法です。
被害届は用紙が警察に備え付けてありますので、基本的にその用紙に被害内容を書き込んで警察に提出するだけです。
ネット犯罪の被害届を出すなら、各都道府県のサイバー犯罪窓口(サイバーポリス)に連絡をして手続きをすると良いでしょう。
警察に相談に行くときには、以下の情報やものを用意しておきましょう。
次に、告訴状の提出方法です。
告訴状を提出する場合も、提出先は被害届と同様に警察署です。
ただ、告訴状に記入する内容は被害届よりもかなり詳しいもの、つまり具体的に被害内容が犯罪の構成要件に該当することを説明しなければなりません。
また、同時に証拠も提出しないと警察は動いてくれません。
きちんと適切に告訴状の内容を記載出来るかどうかによって、警察が動いてくれるかどうかが変わってきます。
そこで、告訴状を提出するときには自分1人で作成するのではなく、弁護士に依頼することをおすすめします。
弁護士は法律のプロなので、相手の行為がどのような罪になるのかをわかりやすくきちんと告訴状に書いてくれますし、証拠も揃えて警察に提出してくれるでしょう。
ご自身が晒しやいじめなど誹謗中傷・名誉毀損を受けているのに、警察が動かない場合もあるでしょう。
この場合は「ネットに強い弁護士」に依頼して、刑事的な解決ではなく、民事的に賠償請求をするのが一番です。
開示請求等を含めて、犯人を特定する方法があります。
警察が動かない場合は、別途ページが詳しいので併せてご参照ください。
なお、名誉毀損罪の告訴期間は犯人を知った日から6ヶ月以内とされています。
ここでいう「犯人を知った」とは、必ずしも犯人の氏名や住所を特定できている必要はありません。
ネット誹謗中傷の場合は、投稿を行ったアカウントが特定できた時点で「犯人を知った」と判断される可能性が高いので注意してください。
ネット名誉毀損で告訴状が受理されたら、その内容を警察が見て、問題があると判断されれば実際に捜査を開始して相手を逮捕してくれます。
逮捕後、被疑者は警察の留置場に身柄拘束されます。
逮捕の期限は72時間(3日間)で、この間被疑者は検察庁に送られ、さらに10日間勾留されるかどうかが決められます。
勾留が決定すると、原則10日間、留置場で身柄の拘束を受けることになります。
起訴前の勾留期間は最長で20日となります。
被疑者の勾留中は、警察が捜査を進めて証拠を集めます。
そして、勾留期間が切れるとき、検察官が被疑者を「起訴」するか「不起訴」にするか決めます。
起訴となれば相手は刑事裁判にかかり、その裁判の中で相手が有罪か無罪かについて審理が行われます。
有罪の場合には刑罰も決定され、相手に「罰金刑」や「懲役刑」などを受けさせることができます。
なお、起訴率については下記のページの記載を確認すると、起訴率は増えては来ているものの約3割とあまり多くはありません
この点、名誉毀損罪の起訴率は約3割であり、起訴全体のうち約4割が公判請求による正式起訴、約6割が略式起訴で罰金だ*。
ここまで刑事告訴の話をしてきましたが、たとえ刑事裁判で相手が有罪になっても、被害者は損害賠償金をもらうことはできません。
ただ、示談になった場合には、被害者は示談金を獲得できる可能性があります。
具体的には加害者側の弁護士から被害者に連絡が来て、「〇〇円で示談してほしい」「示談の話し合いをしたい」と持ちかけられる事が多いです。
なぜなら、被疑者は被害者と示談が成立していると、刑事裁判で情状が良くなり、刑も軽くなることがあるためです。
以上、嫌がらせや晒しなどの名誉毀損と刑法、懲役刑、罰金刑、またネットの名誉毀損で刑事告訴をする方法を解説しました。
ネットにおける誹謗中傷や名誉毀損の書き込みは、拡散も早いことから被害が甚大になる恐れもあります。
そのため、被害を受けたらなるべく早く対処することが大切です。
また、警察はネット名誉毀損について消極的とはいえども、きちんと証拠を揃えて説明できれば刑事告訴を受理してくれるケースもあります。
ただ、素人の被害者がひとりで対応していても、不備があったり説明が不十分だったりしてまともに取り合ってくれないことも多いです。
そんなときは、弁護士に相談してみましょう。
弁護士であれば適切なアドバイスをくれると同時に、刑事告訴の手続きなども進めてもらえます。
プロに任せることで、精神的な負担も軽減することができるでしょう。
もしネットトラブルに悩んでいるのであれば、無料相談なども活用して一度連絡してみてはいかがでしょうか。